中日両国では、創世女神に関して各方面からいろいろな研究をされてきた。「イザナギ イザナミ:創世結婚の文化学的意義ー私の『古事記』解読」(厳紹璗,2011)で、両神の結婚について、この式の中に含まれる古代日本の哲学信仰、人類文明の共通意識、異なる文化に対する融合力という3つの文化学的意義から分析した。「中日创世神话比较及女性崇拜渊源探微」(朱玥, 2012)は中国の女媧、伏羲と日本の伊邪那美、伊邪那岐を比較して、両国文化の相互的な影響を示し、日本の女性崇拝の根源は創世神話にあると論じた。女神が独神から双神になるのは神話の進化だと考えた。「中日创世神话的比较」(曹璐茜2010)では、中日両国の神話に関する研究はヨーロッパ各国ほど進んでいないと言っている。原始時代の人は自然の中で起こった事々が理解できないから、それは神様の指示だと思い込んでいた。だから、原始時代の人々の生活習慣、信仰、自然に対する態度などは神話的色彩を帯びている。両国の創世神話の共通点と相違点から、人類の原始的な思想を分析して、各国家の神話は各国家の人の認識から生まれると分析してきた。「中日神话比较——以天地创造神话为中心」(董晓玫,2014)は両国の創世神話における女神の人柄、最後の居場所、後世に与える影響を比較した。日本神話における統治権力の思想、天皇の由来、英雄観なども日本文化の特徴を表わしていると論じた。「日本神話はいかに描かれてきたか――近代国家が求めたイメージ」(及川智早,2017)年}という著書は 『古事記』『日本書紀』などの日本神話や古代説話が、近代においてどのように受容されたかを、雑誌の口絵・挿絵、絵葉書や双六、薬の包み紙などに見られる図像の数々から探る。研究史的には不毛とされてきた戦前期、しかし、図像を中心とした受容史の視座から考えるなら、文字に書かれていない事柄へ向かう逸脱や変容が、興味深いかたちで出現していると著者は考察を重ねていく。第一章「結婚式の神となったイザナキと伊邪那美」で、イザナキと伊邪那美が夫婦道の創造者、天の浮橋の闖入者、神前結婚式の発明者であると述べている。「死と生の祀り-伊邪那美・伊邪那美神話における生命思想」(吉田真樹,2002)で、神道思想史・日本思想史全体における伊邪那美神話の位置づけを確定し、伊邪那美は「生む」ことにおいて、自動的身体との乖離としての「感情」を獲得する素地を得、「死ぬ」ことにおいて身体から完全に分離した「感情」を獲得したと論じた。
研究背景
中国と日本は一衣帯水の隣国関係である。 中日両国は古代から密接な付き合いがあり、両国は文化の伝播において相互影響の関係にある。したがって、両国の文化は共通性を持ち、同時に独自性も持っている。
神話は人々の幻想に基づいて作られた物語であり、大昔の人の自然や社会に対する認識、願いを言っているものある。言い換えれば、神話は現実の生活とそれをとりまく世界の事物の起源や存在論的な意味を象徴的に説く説話である。神をはじめとする超自然的存在や文化英雄による原初の創造的な出来事・行為によって展開され、社会の価値・規範とそれとの葛藤を主題とするものである。その中で、人類が認識する自然物や自然現象、または民族や文化・文明などさまざまな事象が見られるから、神話は国の文化を探る出発点になろうと思う。
地理環境や民族文化などの影響で、各国家の神話の特徴には共通点もあれば、相違点もある。中国の神話にも日本の神話にも創世神話があり、その中で創世女神の姿が見られる。本論文は両国の創世女神--女媧とイザナミを研究対象として比較研究をしようと思う。この二柱の神は同じく生命を作る、功績の顕著な、人徳の高い生命の女神であり、独神と双神の二つの姿で存在している。が、形体、性格の転換、民間でのイメージが違っていると思う。