译文:
男子之所以认为女孩还没有忘记自己,其实是有原因的,提到这里就有段有趣的插曲了。这个女孩从前一直在同一时间乘坐从代代木驶来并且开往牛込的电车,虽然之前早就见过她,但还未开口搭过话。只是面对面地坐着,觉得这姑娘真的是很胖啊。继而又想,脸上的肉肥嘟嘟的、乳房也丰满,她还真是个很不错的女子啊!并且反复打量了无数回,美丽的笑容、耳朵下端那颗小小的痣、在拥挤的电车里拉住铁环的又长又白的手臂、偶然碰到来自信浓町的同学时那利落的谈吐,尽管这些,男子都已经熟知了,但这女孩家住哪里呢?她的家,还有她的家人,男子都想了解。
看上去喜欢得都想去跟踪她,但是也不是非得要知道那些事。某一天,男子和往常一样戴着平日里的帽子、围着披风、穿着西服、鞋子,跟往常一样在千驮谷的庄稼地里朝这边走来。突然迎面走来了那位丰腴的姑娘,和服外褂上面随意地系着白色的围裙、一边用右手压着半解开的头发,一边在和像是她朋友的姑娘交谈着什么。在与以往不同的地方遇到,总觉得有种熟悉感,他似乎是这么想的,男子准备等距离再短一点的时候和女子点头打个招呼,于是便放慢了原先急促的步伐。姑娘也是一眼就看向了这边,像是在想着“啊、那个人、是那个经常乘电车的人呐”,然而姑娘却没有点头示意,只是安静的径直走了过去。男子在擦肩而过的同时,脱口而出:“今天不用去学校吗?哦,考试休假或者放春假了吧”,又无意识地连续走了五六间路,忽然发现了在又黑又柔软的美丽的春土上,掉落着一根铝制发针,像是用银在金屏风上画出来的松叶一样。
是那位姑娘的!
男子一下子回过头,大声叫道:“喂~喂~”一连喊了几声。
姑娘也才走过十间的距离,当然是听到了呼喊声,但是没想到是刚刚和自己擦肩而过的大个子男人在呼唤自己,就头也没回地和朋友并肩走着,时不时轻声地说些耳语。朝阳在田野农夫的铁锹刃上闪闪发光。
“喂~喂~”男子押韵似的再次呼喊着。
这次,姑娘终于回头了。正看到男子朝这边两只手高高地举着,样子十分有趣。这时她突然用手摸了摸头发,才惊觉发针不见了。猛地察觉到了什么,自言自语道:“哎呀!我真是的,怎么把发针弄丢了哟”,说着便慌慌张张地跑了过去。
男子就这么举着双手,拿着铝制的发针等着姑娘。姑娘气喘吁吁地跑了过来。马上就到了这边。“真的是谢谢你了……”姑娘害羞似的羞赧着脸,道了谢。轮廓又大又方的脸很高心地笑着,男子把发针交到了女孩又白又美的手上。“真的是太感谢你了”,女孩再一次地郑重感谢,随后便转过身走了。
男子高兴坏了,兴奋到了极点。这样一来,那位姑娘就会记住自己了……男子这么想着。以后就算是在电车里遇到,绝对会想到那个人就是捡到我发针的人了。如果自己再年轻些,姑娘再稍微美一点,如果上演这样一幕的话,肯定能写成一本小说了,男子不着边际地发挥着想象。联想又催生出一系列的想象,自己随意挥霍掉了自己的年轻时代,以恋人身份娶回家的老婆也日渐衰老,子女又多,自己的生活荒凉又寂寞,被时代所淘汰,也看不见未来,各种各样的事情像一堆杂乱的线团互相缠绕着,毫无头绪,永无止境。突然,自己工作的某杂志社的总编辑那张厌烦的脸清晰地浮现在眼前。男子立马甩开空想,急忙赶路了。
原文:
この娘は自分を忘れはすまいとこの男が思ったのは、理由のあることで、それにはおもしろいエピソードがあるのだ。この娘とはいつでも同時刻に代々木から電車に乗って、牛込まで行くので、以前からよくその姿を見知っていたが、それといってあえて口をきいたというのではない。ただ相対して乗っている、よく肥った娘だなアと思う。あの頬の肉の豊かなこと、乳の大きなこと、りっぱな娘だなどと続いて思う。それがたび重なると、笑顔の美しいことも、耳の下に小さい黒子のあることも、こみ合った電車の吊皮にすらりとのべた腕の白いことも、信濃町から同じ学校の女学生とおりおり邂逅してはすっぱに会話を交じゆることも、なにもかもよく知るようになって、どこの娘かしらん? などとその家、その家庭が知りたくなる。
でもあとをつけるほど気にも入らなかったとみえて、あえてそれを知ろうともしなかったが、ある日のこと、男は例の帽子、例のインバネス、例の背広、例の靴で、例の道を例のごとく千駄谷の田畝にかかってくると、ふと前からその肥った娘が、羽織りの上に白い前懸けをだらしなくしめて、半ば解きかけた髪を右の手で押さえながら、友達らしい娘と何ごとかを語り合いながら歩いてきた。いつも逢う顔に違ったところで逢うと、なんだか他人でないような気がするものだが、男もそう思ったとみえて、もう少しで会釈をするような態度をして、急いだ歩調をはたと留めた。娘もちらとこっちを見て、これも、「あああの人だナ、いつも電車に乗る人だナ」と思ったらしかったが、会釈をするわけもないので、黙ってすれ違ってしまった。男はすれ違いざまに、「今日は学校に行かぬのかしらん? そうか、試験休みか春休みか」と我知らず口に出して言って、五、六間無意識にてくてくと歩いていくと、ふと黒い柔かい美しい春の土に、ちょうど金屏風に銀で画いた松の葉のようにそっと落ちているアルミニウムの留針。
娘のだ!
いきなり、振り返って、大きな声で、
「もし、もし、もし」
と連呼した。
娘はまだ十間ほど行ったばかりだから、むろんこの声は耳に入ったのであるが、今すれ違った大男に声をかけられるとは思わぬので、振り返りもせずに、友達の娘と肩を並べて静かに語りながら歩いていく。朝日が美しく野の農夫の鋤の刃に光る。
「もし、もし、もし」
と男は韻を押んだように再び叫んだ。
で、娘も振り返る。見るとその男は両手を高く挙げて、こっちを向いておもしろい恰好をしている。ふと、気がついて、頭に手をやると、留針がない。はっと思って、「あら、私、嫌よ、留針を落としてよ」と友達に言うでもなく言って、そのまま、ばたばたとかけ出した。
男は手を挙げたまま、そのアルミニウムの留針を持って待っている。娘はいきせき駆けてくる。やがてそばに近寄った。
「どうもありがとう……」
と、娘は恥ずかしそうに顔を赧くして、礼を言った。四角の輪廓をした大きな顔は、さも嬉しそうににこにこと笑って、娘の白い美しい手にその留針を渡した。
「どうもありがとうございました」
と、再びていねいに娘は礼を述べて、そして踵をめぐらした。
男は嬉しくてしかたがない。愉快でたまらない。これであの娘、己の顔を見覚えたナ……と思う。これから電車で邂逅しても、あの人が私の留針を拾ってくれた人だと思うに相違ない。もし己が年が若くって、娘が今少し別嬪で、それでこういう幕を演ずると、おもしろい小説ができるんだなどと、とりとめもないことを種々に考える。聯想は聯想を生んで、その身のいたずらに青年時代を浪費してしまったことや、恋人で娶った細君の老いてしまったことや、子供の多いことや、自分の生活の荒涼としていることや、時勢におくれて将来に発達の見込みのないことや、いろいろなことが乱れた糸のように縺れ合って、こんがらがって、ほとんど際限がない。ふと、その勤めている某雑誌社のむずかしい編集長の顔が空想の中にありありと浮かんだ。と、急に空想を捨てて路を急ぎ出した。