译文:
某天下午,清脆而美丽,些许冰冷的空气在他的眼前裂成两半,在他眼皮底下的是静静端坐着的妻子的脸颊。
“最近啊,每天早上,我都会祈祷,除了祈祷也没其他办法对吧,我只能不考虑其他无聊的事情,一心地祈祷”
这样说着的妻子正笔直地坐在床上,还是那一副拼命祈祷的神色。白色的墙壁和天花板微微令人头晕目眩,那热乎乎的东西,在他的体内也开始疼痛起来。他轻轻地从椅子上站起来,推开走向窗外的门扉。一出阳台,一阵光亮便扑面而来。在近处一抬眼就能看到,精神科的病房和木炭储藏所,从那边往后门的墙垣后看去,那对面有一片广袤的田野。人家和小路坐落在色彩斑驳的田野上,在毫无遮蔽的天空下描绘出一道大大的弧线,径直地垂在眼前。
………
“下次来的时候,记得把圣经给我带来啊。”
妻子的脸上浮现出落花一般的笑容。……回到家后,他不禁意间翻找出了那本古旧的圣经,看了一下之后他十分感慨。那是他年少的时候,从去世的姐姐那里得到的纪念品。那已经是二十年前的事了,姐姐在去世之前住进了县医院。他只去探望过姐姐两次,在那之后就再也没见过了。这份对姐姐的追忆,总是会唤起他那段甜美的少年时光。这么说来,那他最近总是一边呆呆地望着妻子的脸,一边在思考的恐怕就是这段往事把。他在清静的病房里,神情恍惚着,突然张开嘴,想要,但终究还是咽回去的,恐怕也是这段事吧。
从正午的电车的窗口向外探去,海岸边的草丛里,那泛着白光的草穗引入眼帘。被铲去的沙丘已变成一片洼地,这片草丛便被遗弃在这片隅之地。早春的阳光暖融融得,耳畔也传来了云雀的啼鸣。他被这方景色所吸引,无意间对妻子说的话也不外乎是这些。现在那窗外的草丛中,白色的草穗依旧摇曳着。稍微留点心的话,其实会发现这样的景色在铁道沿线上到处都是。从电车后面的窗口眺望而去,飞驰而去的伸向远方铁道边上,不只是什么不断闪烁着白光。某一天早上,出门去学校的他,在迫近车窗的山崖上,看到了那沙沙作响,早已丈高的草丛,还有那割草的女人。山崖下的草丛也微微地被渲染上一成淡淡的色彩。驶过山崖没多久,田野上这一块儿那一块儿的黝黑地皮便引入眼帘。在那刚收割过的麦茬子地边上,偶尔能看到大耕牛的肚皮。秋雨淅沥沥地下着,从某个车站上车的画家,很快又在下一站下了车。他也怀着画家一般的心情眺望着这样的情景。
之后的某个下午,他在教室里教书的时候,突然察觉到到窗外有一阵异样。他就这样拿着课本,注视着玻璃窗外。在风中摇曳的银杏的树梢上,黄金色的叶片闪烁着金光。啊,是,是那个吧……实在是想不起来名字的那个,那个美丽透明世界,好像就在那边,那个世界悄悄地消失在远方。
原文:
ある午後、彼の眼の前には、透きとおった、美しい、少し冷やかな空気が真二つにはり裂け、その底にずしんと坐っている妻の顔があった。
「この頃は、毎朝、お祈りをしているの、もう祈るよりほかないでしょう、つまらないこと考えないで一生懸命お祈りするの」
そう云って妻はいまもベッドの上に坐り直り、祈るような必死の顔つきであった。すると、白い壁や天井がかすかに眩暈を放ちだす、あの熱っぽいものが、彼のうちにも疼きだした。彼はそっと椅子を立上って窓の外に出る扉を押した。そのベランダへ出ると、明るい気がじかに押しよせて来るようだった。すぐ近くに見おろせる精神科の棟や、石炭貯蔵所から、裏門の垣をへだてて、その向うは広漠とした田野であった。人家や径が色づいた野づらを匐っていたが、遮るもののない空は大きな弧を描いて目の前に垂れさがっていた。
「こんどおいでのとき聖書を持って来て下さい」
妻はうち砕かれた花のような笑みを浮べていた。……家へ戻ってから、ふと古びた小型のバイブルをとり出してみて、彼はハッとするのだった。それは彼が少年の頃、亡くなった姉から形見に貰ったものであった。二十年も前のことだが、死ぬ前、姉は県病院に入院していた。二度ばかり見舞に行って、それきり姉とは逢えなかったのだが、この姉の追憶はいつも彼を甘美な少年の魂に還らせていた。そういえば、彼が妻の顔をぼんやり眺めながら、この頃何かしきりに考えていたのはそのことだったのだろうか。静かな病室のなかで、うっとりと、ふと何か口をついて、喋りたくなりながら、口には出なかったのは、そのことだったのだろうか。
真昼の電車の窓から海岸の叢に白く光る薄の穂が見えた。砂丘が杜切れて、窪地になっているところに投げ出されている叢だったが、春さきにはうらうらと陽炎が燃え、雲雀の声がきこえた。その小景にこころ惹かれ、妻に話したのも、ついこのあいだのようだったが、そこのところが今、白い穂で揺れていた。薄は気がつくと、しかし沿線のいたるところにあった。電車の後方の窓から見ると、遙かにどこまでも遠ざかってゆく線路のまわりにチラチラと白いものが閃いた。ある朝、学校へ出掛けて行く彼は、電車の窓に迫って来る崖の上に、さわさわと露に揺れる丈高い草を刈り取っている女の姿を見た。崖下の叢もうっすらと色づいていた。それから間もなく、田のあちこちが黒いおもてを現して来た刈あとの切株のほとりに、ふと大きな牛の胴を見ることもあった。時雨に濡れて、ある駅から乗込んだ画家は、すぐまた次の駅で降りて行った。そうした情景を彼もまた画家のような気持で眺めるのだった。 それから、ある午後、彼が教室で授業していると、ふと窓の外の方があやしく気にかかった。リーダーを持ったまま、彼は硝子窓の方へ注意を対けていた。ひょろひょろの銀杏の梢に黄金色の葉がヒラヒラしているのだ。あ、あれだろうか、……何とも名ざし出来ない、美しい透明な世界がすぐそこにあるようだし、それはひっそりととおりすぎてゆくのであった。