译文:
从刚刚开始,就总有一种想要从黑暗中逃脱出来的心情支配着他。“雨下得真大啊,今年是雨年吧。”——脑海中忽然浮现出作为渺小人类的嘟囔。这样一来,那些疲倦地靠在公交车和电车上的人类的身姿,总感觉他们把自己委托于空旷的世界。日常营生,甚至是动作,都被看不见的一根线所操纵着。他打开书房的台灯,靠在椅子上一动不动,聆听着雨滴落在屋顶的声响。想到在病房的妻子,和医院的样子,就像在这下着雨的漆黑一片中点亮了一盏令人怀念的小灯似的。
很久以前,那贴在书房墙上的火山口湖的照片,不知被放到何处,现在已经找不到了。但是他时常挂念着那张照片,因为它饱含着过去的种种回忆。那张照片是他和妻子第一次去湖边旅游时,无意中购得的照片。每天早晨,柔和的阳光从窗户照射进来,洒落在照片上,他就这样发着呆尽情地看着。
……
他身处山间,呼吸变得困难起来。于是,妻子便轻轻拍打他的后背。之后,突然在意想不到的地方,出现了公交车站,公交车一帆风顺地在被雾笼罩的山中行驶。——这一切都仿佛是昨天刚发生的事情一样,鲜明地浮现在眼前。但是,第二次一个人去时,游览同一个地方时,记忆也火辣辣的徘徊在眼前。那是一次悲惨、孤独、寂寞的旅行。原本优美的湖边风景,也被黑暗的幻影所覆盖。他带着一副自杀未遂者的表情,一个人回到家中。不久后,他的妻子就吐血了,那是在四年前的秋天。或许正是那时,因为妻子的病,他把自己的命与妻子紧紧拴在一起。
相隔好久,明亮的阳光照射在庭院里,但是,他总有不祥的预感,所以一直无精打采。复查的结果也寄到他那里了,那只是接受医生的检查,再请医生填写一下就好了的,但是,当结果来临的时候,他还是感觉到事情没这么简单。虽然昨天刚去看望过妻子,但是现在他又想回去了。
刺眼的阳光照射在街上。这也使他刚走一会儿就累了起来。但当抵达医院门口后,清晨的走廊就像清澈的水一样透亮。静静推开大门,他向病房走去,妻子凝望着在这意外的时间里突然出现的他,好似十分开心。当看到写着复查结果的纸时,妻子沉默了一会儿。
“检查的事情,交给津轻医生不就好了嘛。”妻子立刻又恢复到元气满满的语气。
“我还以为是天气好你才来看我的,原来是为了这事啊。”妻子带着些许讽刺的意味对他说。“吃了饭再回去吧,好久都没和老公你一起吃过饭了,好不好嘛?”
妻子努力表现出若无其事的样子,想要赶走痛苦的思绪。……穿着红色毛衣,充满活力的小姑娘,推着车来送午饭,吧糖尿病患者适用餐和普通人适用餐放在病床的小桌上后,妻子就拿起筷子分菜给他。
原文:
さきほどから、何か真暗な長いもののなかを潜り抜けて行くような気持が引続いていた。よく降りますね、今年は雨の豊年でしょうか、――そういう言葉がふと非力な人間の呟きとして甦って来るのであった。そういえばバスや電車の席にぐったりと凭掛っている人間の姿も、何か空漠としたものに身を委ねているようである。日々のいとなみや、動作まですべて、眼には見えない一本の糸によってあやつられているのであろうか。彼は書斎のスタンドを捻り、椅子に凭掛ったまま、屋根の上を流れる雨の音をきいていた。病室の妻や、病院の姿が、真暗な雨のなかに点る懐しい小さな灯のようにおもえた。
ながい間、書斎の壁に貼りつけていた火口湖の写真が、いつ、どこへ仕舞込んでしまったものか、もう見あたらなかった。が彼はよく、その火口湖の姿をおもい浮べながら、過ぎ去った日のことを考えた。それは彼が妻とはじめてその湖水のほとりを訪れた時、何気なく購い求めた写真であった。毎朝その写真の湖水のところに、窓から射し込む柔かな陽光が縺れ、それをぼんやり甘えた気持で眺める彼であった。……彼は山の中ほどで、息が切なくなっていた。すると妻が彼の肩を軽く叩いてくれた。それから、ふと思いがけぬところに、バスの乗場があり、バスは滑らかに山霧のなかを走った。――それはまだ昨日の出来事のように鮮かであった。だが、二度目にひとりで、その同じ場所を訪れた時の記憶もヒリヒリと眼のまえに彷徨っていた。みじめな、孤独な、心呆けした旅であった。優しいはずの湖水の眺めが、まっ暗な幻影で覆われていた。殆ど自殺未遂者のような顔つきで、彼はそのひとり旅から戻って来た。すると、間もなく彼の妻が喀血したのだった。四年前の秋のことであった。妻の病気によって、あのとき、彼は自らの命を繋ぎとめたのかもしれなかった。
久し振りに爽やかな光線が庭さきにちらついていたが、彼は重苦しい予想で、ぐったりとしていた。再検査の紙が彼のところにも送附されて来たのだった。それは、ただ医師の診断を受けて、書込んでもらえばよかったのだが、そういうものが舞込んで来ることに、彼は容易ならぬものを感じた。彼は昨日も訪れたばかりの妻のところへ、また出掛けて行きたくなった。
街は日の光でひどく眩しかった。それは忽ち喘ぐように彼を疲らせてしまった。だが、病院の玄関に辿り着くと、朝の廊下は水のように澄んでいた。ひっそりとした扉をあけて、彼が病室の方へ這入って行くと、妻は思いがけない時刻にやって来た彼の姿を珍しげに眺め、ひどく嬉しそうにするのであった。その紙片を見せると、妻はしばらく黙って考えていた。
「診察なら、津軽先生にしてもらえばいいでしょう」と、妻はすぐにまた晴れやかな調子にかえった。
「お天気がいいので訪ねて来てくれたのかと思ったら、そんなことの相談でしたの」と妻は軽く諧謔をまじえだした。「御飯を食べてお帰りなさい、久し振りに旦那さんと一緒に御飯なりと頂きましょうよ」
妻は努めて、そして無造作に、いま重苦しい考を追払おうとしていた。……赤いジャケツを着た、はち切れそうな娘が、運搬車を押して昼食を持って来た。糖尿試験食の皿と普通の皿と、ベッド・テーブルの上に並べられると、御馳走のある試験食の方の皿から、普通食の皿へ、妻は箸でとって彼に頒つのだった。