译文:
我沉浸在这样的思绪里,不知不觉就走到了教室外面。
无意识的打开教室门,被吓了一跳。
教室里有个未曾见过的女生,她坐在教室后面的钢管椅子上。看到我后,略微睁开了红色眼镜后的双眸,合上正在看的用橙色的封皮包着的小书,站了起来。她的头发修剪的很朴素,随着她起身的动作悄然晃动。
“请、请问,您是千谷一也学长吗?”
不知从哪传来了灵动、清脆的声音。
“那个、我是一年级的,叫成濑秋乃。”
她站起来后连忙自报了姓名。
“我有事想要拜托千谷学长。”
她低下头,让我可以看到她的头顶。
“您可以教我写小说的方法吗?”
这就好像突然闯进我生活的噪音一样。
为什么呢,我盯着这个叫成濑秋乃的大一学生这样想着。
“这个,不可以吗……”
大概因为看到我默不作声,她的眉梢好像不安似的垂了下来。
“不是,刚才没听清。”
“啊、这样啊,对不起!”
她低下头,慌张地拿起放在会议桌上的包。
“是九里学长邀请我试试进文艺部的,然后当时听说了有关千谷学长的事情,拜读了学长您的小说。”
我大吃一惊,没想到九里竟然和大一学生说我的事情,明明都说好了不要说出去我是个小说家的。
不过看到成濑从包里拿出来的东西,我发现自己搞错了。因为她拿出来的是文艺部做的几本小册子,那上面登载了我作为文艺部成员所投的短篇小说。成濑抱着那些小册子说:
“我特别喜欢《杯中糟粕》,文章根本不像一个大学生能写出来的,而且很有意思、结尾那里深深地震撼了我。”
她脸上带着腼腆的笑容,却无比刺目到让我抬不起头。那是在九里拜托我后,抽空随手写的一个短篇。
“额…那个、怎么会……”
“我、我喜欢写小说的……”
眼中在闪烁着某种光芒。
她带着好像要说什么似的眼神朝我靠近一步说道。
“那个,当然、跟学长比起来我还远远不足……我身边也一直没有认识的人会写小说……。嗯——虽说我家开了一个小书店,可至今也没有一个喜欢读小说的朋友。可是读了学长的小说就觉得特别高兴,因为在同一所学校里有人能写出这么厉害的小说。”
“哪里哪里,那没什么大不了的。”
“可是很厉害啊,真的感动到我了。”
她就这样抱着小册子,起了劲儿似的跟我说。我好像感受到她身上散发出的热度,往后面退了一点。
“所以,我想…如果可以的话,向千谷学长请教写小说。我虽然喜欢写东西,但还写不出能拿给别人看的东西。我跟九里学长说了这事儿之后他就说,千谷学长肯定有办法。”
或许是因为我没有看着她,成濑的话逐渐失去势头、断断续续起来,知道最后一点都没有了。
“额、不可以吗……”
她发出了怯懦的声音。
她肯定也很在意吧。我对她的存在感到讨厌这种。但说起来我也很困惑,对这个刚认识的女生我有什么好烦的呢。
原文:
そんな思索に耽るうちに、いつの間にか部室の前に辿り着いた。
何の気なしに扉を開けて、ぎょっとする。
室内には、見知らぬ女の子の姿があった。彼女は部室の奥にあるパイプ椅子に腰掛けていたが、僕と視線が合うと、赤い眼鏡の奥の双眸を微かに見開いた。読んでいたらしいオレンジのカバーがかけられた文庫本を閉ざすと、身を跳ねさせるように立ち上がる。切りそろえられた地味めの髪が、はらりと揺れ動いた。
「あ、あのっ、千谷一也先輩ですか」
どこか溌刺とした、明るく煌めくような声音だった。
「あの、わたし、一年の成瀬秋乃といいます」
そう名乗りながら、彼女は立て続けにこう言った。
「千谷先輩にお願いがあります」
ぺこりと頭を下げ、頭頂部をこちらに見せつけながら。
「わたしに、小説の書き方を教えてもらえないでしょうか――」
それは、僕の日常に突如として紛れ込んだ雑音のようなものだ。
どうしてか、成瀬秋乃と名乗る一年生を見つめて、僕はそんなことを考えていた。
「あの、ダメでしょうか……」
僕が黙りこくっていたからだろう。彼女は心細そうに眉尻を下げた。
「いや…。話がよく見えなくて」
「あ、ご、ごめんなさい。そうですよね!」
頭を下げながら、彼女は慌ただしい所作で会議機に置かれていた鞄に手を入れる。
「わたし、九ノリ先輩から、文芸部へ入部してみないかとお誘いを頂いているんです。それで、そのとき、千谷先輩のことをお聞きして、先輩の小説を拝読しました。」
ぎょっとした。九ノリが僕のことを一年生に話すとは思えない。僕が小説家をしているという事実は、決して口外しないように口止めしてあるのだから。
自動ドアを潜ると、並んだ一般雑誌の他に、『話題の文芸書』と題されたコーナーで、積み重ねられた四六判小説の山が目立つ。そのどれもが、映画化あるいはドラム化されるような有名なタイトルばかりだ。発行部数が一万部にも届かないような弱小本が置かれているはずもない、高尚で崇高な限られた名作だけが身を預けることのできる聖域だ。
眩しい場所だった。
派手に平台にならんでいる作品群は、必死になって意識の外へ追いやろうとしても、自然と眼を惹かれてしまう。どうしてたった一つの作品が、あんなにも多くのスペースを占領しているのだろう。もちろん、割を食うのは有名ではない作品たちだ。
もはや宣伝しなくとも自然と売れる作品が平台を選挙しているため、それらは書店の片隅、空気の淀んだほとんと誰も通らない通路にある棚に、ひっそりと身を潜めることになる。
けれど成瀬さんの鞄から出てきたものを見て、自分の早とちりに気が付いた。現れたのはこの文芸部が作った幾つかの冊子だ。それらには僕が文芸部の一部員として寄稿した短編が掲載されているのだ。成瀬さんは、それらの冊子を抱えて言った。
「あの、わたし、『カップの残り滓』がすごく好きでした。文章が、高校生だなんて思えないくらいお上手で、それですごく面白くって、ラストの一文なんて、めちゃくちゃ揺さぶられちゃいました」
こちらに向けられたのは、はにかむような笑顔だった。それが酷く眩しく、僕は顔を俯かせた。九ノリに頼まれて、息抜きに書いた、どうでもよい短編の一つだった。
「ええと、そう、なんだ…」
「あの、わたし、小説を書くのが好きで――」
きらきら、している。
訴えかけるような眼差しと共に、一歩をこちらへと歩み寄って彼女は告げる。
「その、もちろん、先輩に比べたら、ぜんぜん、下手なんですけれど…。わたし、これまで身近に小説を書く知り合いがいなくて…。ううん、その、わたし、実家が小さな本屋をやっているんですけれど、それでも、小説を読むのが好きっていう友達は今までいなかったから、なんだか、先輩の話を読ませていただいて、すごく嬉しくなってしまって。同じ学校に、こんな凄いお話を書ける人がいるんだって」
「いや…、あれは、そんなに大したものじゃないよ」
「あ、あの、でも、凄かったです。感動しました!」
冊子を抱えたまま、勢い込んでそう告げてくる。僕は彼女の発する熱量から逃れるように、僅かに身を引いた。
「あの、それで、わたし…。もしよろしければ、千谷先輩に、小説のことを教えていただけたらって…。わたし、書くのは好きなんですけれど、まだ誰かに読ませられるようなものは書けなくて…。そのことを九ノリ先輩に言ったら、その、千谷先輩なら、きっと相談に乗ってくれるだろうって…」
たぶん、僕が目を合わせなかったからだろう。成瀬さんの言葉は徐々に勢いを失い、途切れ途切れ、部室の空気に溶けて霧散していった。
「あの…。ダメ、でしょうか…」
どこか怯えたような声音だった。
たぶん、彼女も気が付いているのだろう。僕が彼女という存在を鬱陶しく感じているのだということを。けれど僕の方はといえば、困惑していた。僕はいったい、会ったばかりの彼女のなにに苛立っているのだろうと。