译文:
矶子也在公司等着加奈江的到来。她从自己工作的地方走向男员工们的大办公室,替加奈江观察堂岛有没有来上班。
“都已经十点了,堂岛还没个影儿。”
矶子急得撅起了嘴对加奈江嘟囔着。
加奈江尽量保持冷静,毅然决然地向课长办公室走去。没想到从课长那得知了意料之外的事---堂岛昨晚用快递送来了辞职申请。然后给她看了看还在桌上的辞职信。
“没想到他是这种男人,实在是太卑鄙了。而且住址写的是正在搬家。这态度简直就是在逃避。被打了也不能就这么算了,干脆起诉惩罚他好了。去问问别人肯定就能知道他搬去哪儿了。”
课长吃惊地听她讲着,然后盯着加奈江已经消肿了泛着光泽的左脸说道:“还好没留下伤疤。”
加奈江先回到整理室。和等待着的明子、矶子说了堂岛辞职的事。
“真是气人,我们接下来怎么办?”
“嗯,可能是计划好的,对我们或者对公司心怀怨恨,然后不巧就发泄在你身上。”
明子紧蹙眉头,向加奈江说了自己的看法。
与愤怒的两人相反,加奈江筋疲力尽得坐在自己的椅子上叹着气。事到如今我什么也做不了,这种不甘心的感觉太扎心,太难受了。
到了午饭时间,加奈江只喝了明子泡的茶,也没有吃带来的便当。
“你打算怎么办?”明子担心得问到。
“我去问问堂岛座位附近的人。”说着加奈江站起了身。
乍一看拓殖公司办公室的办公桌,材料都被横七竖八随意地摆放着,连账簿上都堆满了许多从返航的船只上寄来的复杂的报告书。
角落里放着暖炉,三十多名男员工都光着膀子,挽着袖子,忙着整理各种材料以及账簿。加奈江从办公桌的缝隙中穿过,走向堂岛对面的桌子。坐在这张桌子右边的是一名叫山岸的青年,他经常和堂岛结伴回家。
加奈江立即问道。
“听说堂岛辞职了。”
“啊,是吗,难怪今天没来。之前他一直嚷嚷着要辞职。好像是哪儿的品川电气公司在招人。”
“他这次要搬到哪里?”
加奈江委婉地询问堂岛的住处。山岸一脸疑惑地看着加奈江的脸,突然笑了起来。
“哎哟,你想知道堂岛的住处?那就请我喝一杯吧。”
加奈江知道如果不说明昨天被打的事,他不会明白自己的目的。
“山岸,堂岛辞职了你还打算和他联系吗?你要是不如实回答我也不会说的。”
“原来你想确认这个啊。我跟他只是会一起喝喝酒的关系。他辞职了我们应该也不会一起了。但是如果在银座见面了还是会打招呼的。”
“那我就跟你说了吧,其实昨天我们回去的时候在走廊遇到等在那里的堂岛,我被他打了一巴掌,打我得头晕眼花的。”
说着加奈江脑海中浮现出当时的情景,她闭上了眼,睁开时眼睛溢出了泪水。
“啊?那家伙干了这种事?”
山岸和旁边的员工都从座位上站起身来围到加奈江身旁。
“辞了这家公司跑去别家工作,还顺便打了女生跑掉。就算当着山岸的面,这件事不能就这么算了。”
这是其他员工的一致意见,山岸开始有点慌了。
“别开玩笑了,那家伙总在银座出现,我看见他的话一定打他一顿。”
说着在大家面前挥起了拳头。
“所以我才想知道他的住址。课长给我看的辞职申请上写的是处所未定。”
加奈江对山岸说道。
“原来如此。他好像说过去品川工作的话会去那边住吧。具体地址我真不知道。但没事儿,过了十点不管哪个酒馆咖啡厅都会清场,那时候我们去银座的…对了去西边那条巷子找个两三天,一定能抓住他。”
山岸向加奈江保证。
“是吗,那我经常去银座看看吧。”
十二月的风穿梭过银座来来往往的人群,掀起了路面上薄薄的尘埃,不知不觉已经是伸手不见五指的黑夜。
原文:
磯子も会社で加奈江の来るのを待ち受けていた。彼女は自分達の職場である整理室から男の会社員達のいる大事務所の方へ、堂島の出勤を度々見に行ってくれた。
「もう十時にもなるのに堂島は現われないのよ」
磯子は焦れったそうに口を尖らせて加奈江に言った。
加奈江は出来るだけ気を落ちつけ、思い切って課長室へ入って行った。そこで意外なことを課長から聞かされた。それは、堂島が昨夜のうちに速達で退社届を送って寄こしたということであった。卓上にまだあるその退社届も見せてくれた。
「そんな男とは思わなかったがなあ。実に卑劣極まるねえ。それに住所目下移転中と書いてあるだろう。何から何までずらかろうという態度だねえ。君も殴られっ放しでは気が済まないだろうから、一つ訴えてこらしめてやるか。誰かに聞けば直ぐ移転先は分るだろう」
課長も驚いて膝を乗り出した。そしてもう既に地腫も引き、白く艶々した加奈江の左の頬をじっとみて「痕は残っておらんけれど」と言った。
加奈江は一旦、整理室へひきさがった。待ち受けていた明子と磯子に堂島が会社を辞めたことを話すと
「いまいましいねえ、どうしましょう」
「ふーん、計画的だったんだね。何か私たちや会社に対して変な恨みでも持っていて、それをあんたに向けて晴らしたのかも知れませんねえ」
明子も顰めた顔を加奈江の方に突き出して意見を述べた。
二人の憤慨とは反対に、加奈江はへたへたと自分の椅子に腰かけて息をついた。今となっては、容易に仕返しの出来ない悔しさが、固い鉄の棒のように胸に突っ張っていく苦しさだった。
加奈江は昼食の時間が来ても、明子に注いで貰ったお茶を飲んだだけで持参した弁当も食べなかった。
「どうするつもり」と明子が心配して訊ねると
「堂島のいた机の辺りの人に様子を訊いて来る」と言って加奈江はしおしおと立って行った。
拓殖会社の大事務室には卓が一見、縦横乱雑に並び、帳面立ての上にまで、帰航した各船舶から寄せられた多数の複雑な報告書が堆く載っている。
四隅に置いたストーヴの暖かさで三十数名の男の会社員達は一様に上着を脱いで、シャツの袖口をまくり上げ、年内の書類及び帳簿調べに忙しかった。加奈江はその卓の間をすり抜け、堂島が嘗て向っていた卓の前へ行った。その卓の右隣りが、山岸という堂島とよく連れ立って帰って行く青年だった。
加奈江は早速、彼に訊いてみた。
「堂島さんが会社を辞めたってね」
「ああそうか、道理で今日来なかったんだな。前々から辞める辞めると言ってたよ。どこか品川の方にいい電気会社の口があるってね」
「あの人は今度、どこへ引っ越したの」
加奈江はそれとなく堂島の住所を訊き出しにかかった。だが山岸はちょっと解せないという表情をして加奈江の顔を眺めたが、すぐにやにや笑い出して
「おや、堂島の住所が知りたいのかい。こりゃ一杯、おごりものだぞ」
加奈江は昨日の被害を打ち明けなくては、自分の意図が素直に分って貰えないのを知った。
「山岸さんは堂島さんがこの会社を辞めた後もあの人と親しくするつもりはある?それを聞いた上でないと言えないのよ」
「いやに念を押すね。ただ飲んで廻ったというだけの間柄さ。会社を辞めたら一緒に出かけることも出来ないじゃないか。もっとも銀座で逢えば口ぐらいは利くだろうがね」
「それじゃ話すけれど、実は昨日私たちの帰りに堂島が廊下に待ち受けていて私の顔を殴ったのよ。私、眼が眩むほど殴られたんです」
そして自分の右手で顔を殴る身振りをしながら眼をつむったが、開いたときは両眼に涙を浮べていた。
「へえー、あいつがかい」
山岸もその周りの社員たちも椅子から立ちあがって加奈江を取り巻いた。
「この会社をやめて他の会社の会社員になりながら、行きがけの駄賃に女を殴って行くなんて。山岸君の前だけれど、このままじゃ済まされないなあ」
これは社員一同の声であった。山岸は慌てて
「冗談言うな。あいつはよく銀座へ出るから、見つけたら俺がかわりに殴り倒してやる」
と拳をみんなの眼の前で振ってみせた。
「だから私、あの人の移転先が知りたいのよ。課長さんが見せてくれた退社届に目下移転中と書いてあるからね」
と加奈江は山岸に相談しかけた。
「そうか。品川の方の会社へ変ると同時に、あの方面へ引越すとは言ってたんだがね、場所は何も知らないんだよ。だが大丈夫、十時過ぎになればどこの酒場でもカフェでも、お客を追い出すだろう。その時に銀座の……そうだ西側の裏通りを二、三日探して歩けばきっとあいつは掴まえられるよ」
山岸の保証するような口振りに加奈江は
「そうお、では私、ちょいちょい銀座へ行ってみますわ」
師走の風が、銀座通りを行き交う人々の足もとから路面の薄埃を吹き上げて来て、思わず、あっ!と眼や鼻をおおわせる夜であった。