「オタク」、サブカルチャーに足を突っ込んだ者として、この言葉に出会わざるをえないだろう。これまで「オタク=犯罪者」などといろんなレッテルを貼られてきたが、今のように社会にこれほど大きな影響を及ぼすとは誰も想像だにしなかったんだろう。「在日大使館の萌えキャラの適用」、「秋葉原の復興」、「初音ミクの誕生」。もはや、「オタク」という「新人種」の誕生に時代の必然性が存することを否めない現状となっている。1989年の宮崎勤事件をきっかけに、「オタク」が世間を騒がせてから、良し悪しの狭間に右往左往しながらも、数多の研究の種ともされてきた。しかし、かくいう研究の多くは一面から論ずるものであり、多少バイアスも伺えるが、その中により深く、様々な方面から研究するものは少ない。本論では、各資料を咀嚼する上で、私の個人的な経験も兼ねて、「オタク文化」というものをよく推敲しようとする段取りである。
本論の第一部分は「オタク」という言葉が形成したコンテキスト及びその定義について論ずる。
冒頭にも書いているように、1989年の宮崎勤事件をきっかけに、「オタク」は世間を騒がせていたとあるが、実はその事件の前に、「オタク」という言葉は既に一部の人達の間で使われていた。1983年に中森明夫という評論家が『漫画ブリッコ』のコラムでコミックマーケットに集まる集団を「オタク族」と蔑称的に命名することから、「オタク」という語彙が人々の間に広まり始めた。そして、宮崎勤事件によって、「オタク」が世間にマイナス的イメージを持たされるようになった。世間に晒された以上、注目を浴びる羽目になりかねない。「オタク」もそうだ。幾多の学者が「オタク」に携わっていたが、その定義については各々であった。評論家の岡田斗司夫は「オタク」文化を創作作品の職人芸を楽しむ文化としてとらえていた。精神科医の斎藤環はセクシュアリティが「オタク」の本質であり、二次元コンプレックスを持つのが「オタク」だとした。哲学者の東浩紀はサブカルチャーとの結び付きを重視した模様である。
本論の第二部分はオタク文化の発展について論じる。
秋葉原の変化について簡単に紹介してから、初音ミクや現在における発展の実況を提示し、人々にオタク文化がどれだけ社会に影響を及ぼしたのか、是非分かってもらいたいと思っている。
本論の第三部分はオタク文化が盛んになる原因を探ってみたいと思います。「聖地巡礼」やオタク達の幾つかの異質な行動、萌要素から盛んになる原因を探ってみたい寸法である。
本論の第四部分はオタクとオタク文化の将来性について論じる。
ある哲学者がこう言った。「存在するからにはそれなりの理がある」と。「オタク」とは、現世において現れた引きこもりの姿であり、常に現代性というものを内包している。『オタクに未来はあるのか!?―「巨大循環経済」の住人たちへ』の中では、「オタク」の欠陥を取り上げたとともに、「オタク」が発揮している経済効果を見出して、それが今現在の社会に大きな影響を及ぼしているとも述べた。
上記の状況を把握した上で、各資料に準じながら、本論を展開していき、人々に少しでもオタクとオタク文化について分かってもらえばと思っている。
参考文献:
[1] 岡田斗司夫 『オタク学入門』 新潮社 2008
[2] 森永卓郎 岡田斗司夫 『オタクに未来はあるのか!?―「巨大循環経済」の住人たちへ』 PHP研究所 2008
[3] 野村総合研究所オタク市場予測チーム 『オタク市場の研究』東洋経済新報社 2005
[4] 岡田斗司夫 『オタクはすでに死んでいる』新潮社 2008
[5] ヒロヤス・カイ 『オタクの考察』 シーアンドアール研究所 2008
[6] オタク文化研究会 『オタク用語の基礎知識』マガジンファイブ 2006
[7] 榎本秋 『オタクのことが面白いほどわかる本』中経出版 2009
[8] 吉本たいまつ 『おたくの起源』エヌティティ出版 2009
[9] 唐沢俊一 岡田斗司夫『オタク論』創出版 2007
[10] 東浩紀『動物化するポストモダン オタクから見た日本社会』講談社 2001
[11] 東浩紀 大塚英志 『リアルのゆくえ──おたく オタクはどう生きるか』講談社 2008
[12] USA雑誌 『Otaku USA 2012』 Sovereign/Homestead Publishing; Bimonthly版 2012
[13] 汪靖 顾晓晨 『"御宅族"现象——新一代媒介依存症』当代传播 2008
王云紅 王树義 『从交际角度看日本"御宅族"文化现象』河北師范大学学报 2009